待て、おかしいぞ
いつから現視研は……こんなヤリサーみてーになったんだ!?
さっきから聞いてりゃ 女 女 女!
やるとかやんねーとかそんな話ばっか!! 違うだろ!?
今あのマンガが一番おもしれーとか!!
冬アニメ不作スギィ! とか!!
集まって徹夜でひたすらゲームとか!!
そーゆーサークルだったんじゃないのか!?
◆大学のオタサーで繰り広げられる人間模様を描いた『げんしけん』(木尾士目/講談社)は、連載初期こそオタクの生態などをリアルに描いているが、後半にかけてはオタサーの恋愛、オタクの恋愛というのがこれでもかとぶちまけられる。読んでいくうちに「耳が痛い」から「胸が熱い」になっていく、オタクならば必読のような作品である。
冒頭に引用したセリフはその『げんしけん』最終巻で発せられる。同じ「げんしけん」だった友人たちがこぞって彼氏彼女を作っていく中、訪れたチャンスさえ自ら投げ出し、独りオタクであり続けようとする斑目晴信の渾身の叫び。それが今、ちょうど我が身に重なっていく。
◆先日、またしても旧知のオタクと酒を飲んでいたとき。十分に酔っぱらった彼は何かの弾みにこんなことを言った。
「こーやって毎度毎度2人で集まってもさ、浮ついた話のひとつもなく、結局また『あのマンガがおもしろい』とか『あのVTuberがキてる』とか、そんな話ばっかりだな!」
「……え、それ『げんしけん』じゃん」
「『げんしけん』だな」
さっきまで酔っていたくせにコラ画像の夜神月ばりに急に冷静になるのはやめてほしいが、しっかりオタクをしている彼なので、自分の発言が斑目のそれと同じだと気づくのに時間はかからなかった。
◆オタクならば誰しもが、一度は「げんしけん」に所属していたはずだ。好きなコンテンツに狂気的に熱中して、学業や生活さえも疎かにする時期が必ずあったはずなんだ。
でもやがて、みんな「げんしけん」を卒業していった。成熟した彼らは、職に就き、素敵な人と出会い、新しい人生を始めようと邁進している。そして私だけがまだ「げんしけん」に囚われている。あの頃を懐古し続ける斑目晴信のように。仕事や結婚に希望を見出せないまま、虚構の沼に溺れ続けている。
◆私や旧知のオタクは、こんな風にコンテンツに狂信することを是とする人生を望んだんだから、これでいい。ただ、ちょっと物悲しい。少しずつみんなが巷で話題のあれこれから離れ、日々の疲れを癒すことだけに時間を割くようになったことが。
もう何ヶ月もすると、私も社会に飛び込む。給料が入れば漫画買い放題じゃんなんて、今はまだ甘いことばかり考えているけど、その甘い考えこそが若さであり、狂信なのだ。いつまでもこの心を忘れずにいたい。たとえそれが浮ついた話とトレードオフであったとしても。