◆先日、会社の飲み会でMBTIの話になった。

新卒の後輩いわく、入社時に自分のMBTIのタイプを会社に提出したという。隠し立てもせずMBTIをバカにしているので、弊社も愚かだな~~~と鼻で笑った。ところが、そばにいた派遣社員の方も「私も派遣元会社に提出した」という。提出が当然になっているという時流に、心底驚いた。
他に聞くところによれば、入社試験で診断を受けさせられたり、面接時点で報告したりもあるとのこと。どうやら、MBTIは社会的に信用を得始めているらしい。
これは私にとって大きな衝撃だった。その後、考えを整理したところで頭に2つの疑義が生まれた。すなわち
・いつの間にそれほどの社会的信用を得始めたのか
・仮に信用できるものだとして、それを公用していいものなのか
◆MBTIは、いつの間にそれほどの社会的信用を得始めたのか。
AIに聞いたところ、MBTIは2022年ごろ、韓国のアイドルが自分のMBTIをSNSに公開したことがきっかけで流行り始めたという。診断結果に共感しやすく、自己理解にもつながるといったところがウケたらしい。
一方で、Wikipediaにすら疑似科学的なものだと記載されている。たとえば、大多数の人は診断結果が尺度の中央に位置するためにE/Iのような二分法の根拠がなく、時々によって診断結果が変わるところである。実際自分でもやってみたところ、P/Jの結果が50%付近で、サイトやタイミングで結果が揺れる(補記1)。
ja.wikipedia.org
そもそも、よく利用される16 Personalitis等の無料診断サイト自体が、「信頼性も妥当性も検証されていない」「世界規格のMBTIとは一切関係ない」として、日本MBTI協会(補記2)の公式サイト上で批判されている(正式な日本語版は2000年時点で導入されている!)。
www.mbti.or.jp
そうした批判がありながら、しかし流行からわずか2~3年で、MBTIは公的に利用されるようになっている。なぜだ・・・?
◆一応、一定の理解はできる。ビジネスシーンと「自己分析」は非常に相性がいい。
就活を思い出す。私はそういうものを当時からバカにしていたので、就活時の自己分析にもきちんと向かい合わなかった。その結果としてびっくりするほどの不採用を食らった。茶番だと承知した上で茶番で望まれたロールプレイングをできるか、ということを理解していなかったその頃の記憶が懐かしい。
prooooove.hatenablog.com
話が脱線してしまったけれど、就活生の特性を測るツールとしてこういうものが使われていることは理解している。しかしガクチカや自己分析といった定性的な尺度だけでは、数度の面接で人となりを完全に把握することは難しいだろう。
そこへ、MBTIが来日した。その若者への浸透度と、公開することに忌避感が薄いという文化の醸成。会社、特に人事部の立場からすれば、人物像が分からない新卒たちの特性をざっくり測れる、ある種 定量的な(?)尺度が降ってくる。ちょっと穿った目線ではあるが、それはありがたいことであろう。そういう意味では、信用を得始めているというより、利用され始めていると言った方が正しいのかもしれない。
◆そう捉えたとき、2つ目の疑義が生じる。仮に信用ないし利用できるものだとして、それを公用していいものなのか、というところだ。
結論から述べてしまえば、MBTIを就労のような公的な場で取り扱うのは不適切だと私は考える。MBTIの診断結果は個々人の生まれ持った特性に由来すると謳っている以上、センシティブ情報に近いものだと捉えているからだ。
センシティブ情報とは主に金融業界において呼称される個人情報の一種で、住所・氏名・マイナンバーといった直接個人を特定できる情報とはまた異なる配慮を要する、取扱注意な情報というものだ。
keiyaku-watch.jp
一口にセンシティブ情報といっても、たとえば既往歴や身体障害といった健康情報は、入社後に会社側での配慮を要する・専用の制度を利用するなどのこともあるだろうから、会社に提出することも理解できる(おそらく提出が義務化されている)。
一方で、信条や犯罪の被害を受けた事実などは、就労に直接影響するものではないし、就労にあたってわざわざ報告するものでもない。むしろ報告させようものなら、思想の自由やプライバシーを侵害することになる。
私は、MBTIは信条に近いものであり、就労等に公用されるべきではないと考える。なぜなら、MBTIの特定のタイプへの偏見増長に繋がりうるからだ。
◆毛嫌いしているがゆえにあまり詳しくはないが、MBTIにも「自慢したくなるレアなタイプ」「数の多い普遍的なタイプ」といったものがあるらしい。それは裏を返せば「あまり会社にいてほしくないタイプ」も、徐々に理解されていくことに繋がりうる。
提出されたMBTIとその人の就労態度を合わせたデータが何年か積み重なれば、このタイプはあまりうちの仕事に向いていないとか、あのタイプは社内で不和を生みやすいという風潮が生まれかねない。そうなれば、次世代の就活生はそのMBTIタイプを提出しただけで嫌な顔をされる。
私が一番 不安視しているのは、MBTIが発達障害に結びつけられてしまうのではないかというところだ。そもそもが科学的に不確かな診断だが、仮に信用できるとすれば、個々人の特性の違いを紐解くMBTIのタイプ、それは発達の程度に左右されるのでは? と考えられてもおかしくない。
調べた限りMBTIと発達障害を科学的に結びつける根拠はなかったが、巷ではすでに「発達障害に多く見られるMBTIのタイプ」というテーマの動画や記事が多くみられた。こうしたものが広まれば、ではそのタイプの人は採用を見送ろうともなるかもしれない。
◆もちろん、上記は偏見である。科学的な根拠はないし、私の意見でもなければ、差別的な意図も全くない。だが、数が集まれば統計が出る。その統計による差別を憂いている。
たとえば何十年とあらゆるシーンで女性が戦っている歴史があるように、統計による差別はなかなか撲滅できるものではないし、私にも、そしておそらく女性自身の中にも、数字や環境から植え付けられた偏見が存在する。その厄介さをよく噛みしめて理解できるほど大人になれたのは、ごくごく最近だ。
MBTIの厄介なところは、科学的に不確かであるにもかかわらず(そしてその無料診断自体が紛い物であるにもかかわらず!)、まあまあな数の質問への回答を通していることで、科学的っぽく見えるところにある。先のMBTIのWikipediaにおいても「批判への反論」という項目があるくらいだ。しかし、もし「ある程度確からしい」のだとしても、それを公用の盾にしてはいけないだろう。信仰や所属党を履歴書に記載しないことと同様に。
◆無料診断サイトでは、どのタイプについても好意的な言葉が書かれている。大好きな韓国アイドルと同じタイプだったりしたら嬉しくもなるだろう。だから公開することにも忌避感が薄いのだと思う。
一方で、それを公開することは、自分の特性を勝手に推量されることに他ならない。〇〇っぽいよね~も、バカ話の上では「はいバーナム効果ァ!!」で一蹴だが、それを理由にお祈りメールが届いていいわけがない(そんなことがあるとは信じたくないが)。
そんな「他者を不確かに属性分けできる」ようなものが、公用されていいわけない。ずっとバカにしていたが、これからは少し慎重に扱っていきたい。
※補記1
一応、私の16 Personalitisにおける自己診断ではINFJ-Aでした。
試しに、他人からどう見られているのか、彼女と友人に他己分析をお願いした。すると、2人ともINFP-Aという結果になった。ただし、唯一自己/他己で異なったP/Jについては、自己診断で53%計画型(P)、他己診断で64%探索型(J, 彼女)、82%探索型(J, 友人)となっており、どっちつかずという感じ。
補記2に後述の通り、MBTIは先天的な性格(キャラクター)を測るもの。本当はてんで違う結果が出ると思っていたのだが、意に反して自己/他己で似たような診断結果になった事実は、MBTIアンチとしては腑に落ちないところもありつつ、私が思う自分を理解してもらえて嬉しいな・・・の気持ちもあり、複雑。
※補記2
日本MBTI協会の存在は、これを書くにあたって初めて知った。こんな変な流行が始まるよりもずっと前に、研究を重ねて日本版を作成し展開に努めているとのことで、こうした方々には敬意を抱きます。
MBTI診断は、後天的に得られる「人格(パーソナリティ)」ではなく、先天的に得ている「性格(キャラクター)」を測るものだという。そして、正式な診断手順として、診断結果を得たうえで有資格者との対面でのフィードバックを受けることの方が重要とのこと。無料診断サイトの結果などなおさら公用するべきでないなと思いつつ、正式な診断にちょっと興味も沸いてしまった(2万円くらいするらしい)。
そしてこの協会は、16 Personalitis等の無料診断サイトを「もどき」だの「まがいもの」だのとこきおろしていておもしろい。いいぞ、もっとやれ。
※補記3
最後に断りを入れるが、このエントリはあくまでMBTIを公用することへの憂慮であり、プライベートで楽しむ分には何も悪くない。私もこれを書いている最中いろいろと調べていて危うく沼りそうになった。自分を見つめ直すきっかけの1つとしての手軽さ、帰属意識が与える充実感、十分に理解できる。といっても、アンチは続けるけれど。