ちょっと長めのツイート

お気持ちを配信しています

もうじき梅雨がやってくる

 

    山手線は日暮里を出て反時計回り、田端あるいは駒込あたりまでは、思いの外木々や草葉が生い茂っている。見慣れた光景ほど何も見ていないとはよく言うが、この時期になると梅雨に濡れた草葉の何とも言えない匂いが湿っぽい空気に運ばれてきて、意識的に周りを見るようになる。年に一度の雨の匂い。もうじき梅雨がやってくる。

 

 

    いつかに花火を見に行った。テレビ中継も行われる大きな花火大会で、友達と見に行くなんて初めてのことだった。怪しい雲行きは徐々にその鈍色を深く濁らせて、いつしか激しい雨が一帯に降り始めた。草地に敷いていたビニールシートを被って駅まで猛ダッシュしたけど、着いた頃には全身ずぶ濡れだった。以来花火大会とは縁が無い。その年のテレビ中継は昨年の様子が放送されたらしい。

     

 

     そんな感じで雨にいい思い出なんてない。服は濡れてうっとうしいし、傘は場所を取って邪魔でならないし、洗濯物も干せない。どんよりとした曇り空でげんなりする。けど、不思議と雨模様は好きだったりする。

    「君の名は。」が大流行した昨年、流行に乗じて新海監督の過去作を観なおそうと思い立ち、そのひとつである「言の葉の庭」を観た。雨の新宿御苑でみせる哀しい孤悲の物語。DVDで、AbemaTVで、下北沢の小さな劇場で観たその映画では、普段忌み嫌っているはずの雨垂れや雨音がいつもより愛おしく思えた。そして映画のラスト、画面一杯に広がる雲間から伸びる日差し。梅雨どき恋い焦がれてやまない日の光がこれでもかと鮮やかに画面を包む。

 

 

    本当に好きなのは雨上がりの空かもしれない。日の光が軒先の雨垂れや水たまりに反射して光り輝いているように見える。雲の切れ間から柱のように降り注ぐ様は本当に綺麗だ。 運が良ければ虹も見える。スペクトルなどは考えないでぼーっと眺めていると楽しくなってくる。梅雨の合間に突然やってくる夏日は、いつにも増してカラフルだ。

    新緑萌ゆる5月を越えるとまもなく梅雨がやってくる。祝日のない6月にじめじめと蒸し暑い日々が続くのは気が滅入るし、湿気に弱い天パの毛先はくるくると踊って言うことを聞かない。日の光が恋しいので、少し上を向いてみようと思う。